選択と集中:個人や弱者が勝つための戦略とは?【成功のポイントは参入障壁;『孫子』①】

書籍紹介

 

 

お金やスキル、人脈、知識などの資源が乏しい・・・。

けれども勝ちたいし、生き残っていきたい!

でも、そのためには、どうすればいいのか・・・。

 

こういった気持ちをお持ちでしょうか?

 

そのお気持ちを言い換えると、

現状が資源に乏しい「弱者」の状態だけれども、勝ち残っていくための戦略や知恵が欲しい

ということになるかと思います。

 

そこで、今回からシリーズとして、

金銭や知識、スキルなどの資源に乏しい会社や個人、すなわち弱者どう勝ち残っていけるのかについて、

ヒントになる書籍を紹介しつつ考えて行きたいと思います。

 

まずシリーズ最初の書籍として、戦略書の至高の古典言われる「孫子」を取り上げてみたいと思います。

具体的には、この書籍になります。

 

「最高の戦略教科書 孫子」守屋淳著 日本経済新聞出版社

 

まず第一回目の今回は、「弱者の戦略」の肝の1つ、「選択と集中」について本書のポイントの解説します。

 

 

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弱者が勝つには「選択と集中」が必須だが・・・

 

「孫子」と並ぶ、有名な戦略ノウハウとして知られるのが「ランチェスター戦略」ですが、

ランチェスター戦略でも「弱者の戦略」として「差別化戦略」の重要性が説かれています。

 

 

 

しかし具体的には、どう差別化すべきなのか?

 

それについては「ランチェスター戦略」も「孫子」も、

他社が行っていない事業や分野で、なおかつ自社で勝てるところで戦う

すなわち「得意分野への特化」こそが重要だと説いています。

 

そして「得意分野への特化」とは経営資源の「選択と集中」に他なりません。

 

しかし、「選択と集中」できても、必ず勝てるわけではないです。

というのも、

儲かる旨味がある市場は多くの新規参入により激しい競争が起こってしまうからです。

 

 

ポイントは「参入障壁を作れるか」

 

それでは、「選択と集中」を成功させるにはどうすれば良いのか?

 

その答えを本書「孫子」は、

いかに他社に対する参入障壁を作れるか」にかかっているとしています。

 

では、そのための参入障壁とは具体的にはどんなものが考えられるのか?

本書では主に以下の3点を挙げています。

 

  1. ライバル他社の「矛盾を突く」
  2. 他社ではマネできない(しにくい)、オリジナリティの高い価値を提供する
  3. 規模や体力での圧倒的な差

 

これだとまだ抽象的なので、

以下の「選択と集中」の成功例失敗例を解説する中で、具体的に説明していきます。

 

 

「選択と集中」の成功例:アサヒビールの逆転劇

 

「生ビール」に「選択と集中」をした

 

まず、「選択と集中」の成功例である「アサヒビールの逆転劇」からご紹介します。

 

ちなみに、この逆転劇は王者キリンにつけられていた絶望的なほどの差(ビールシェア差6倍以上)をひっくり返したため、

戦後最大の「選択と集中」の成功例と呼ばれています。

 

1980年代半ば国内のビールシェアにおいてキリン63%に対してアサヒ9%未満で、アサヒは大劣勢明日つぶれてもおかしくない状況だったとのこと。

その状況の中アサヒの人達は、

 

「このままキリンと同じ土俵で戦っていては勝ち目がない

 他の土俵に『選択と集中』をかけよう」

 

と決意し、

当時の副社長の中條高徳氏は

「虞を以て不虞を待つ者は勝つ(準備万端で、準備不十分な敵を待ち受ければ勝てる)」

という「孫子」の一節が応用できることを思いつき、次のように考えました。

 

キリンはラガー(熱処理したビール)では圧倒的だが、「生」は「邪道」と考えて戦略をロクに立てていない。

(※今でこそ当たり前の「生ビール」だが、当時はビール全体の2割程度のシェアしかなかった。)

すなわち「生」で攻められた時の用意は殆どできていない

ならば、こちらは「生」に一点集中すれば良い。

 

この決断の結果、1987年に発売されたのが有名な「アサヒスーパードライ」で、

これが爆発的に売れまくり、キリンとのシェア差6倍を十数年かけて逆転させに至りました。

 

王者キリンが逆転された理由:「過去の成功が足かせになった」

 

なぜ王者キリンはアサヒの猛攻勢の前にズルズルと逆転を許してしまったのでしょうか?

 

それは強者の最強の反撃手段である

強者の戦略=ミート戦略」を採れなかったという事情があったからです。

 

ちょっと補足

ミート戦略」とはシェア首位(市場シェア26.1%以上)の「強者」がシェア2位以下の企業の戦略をマネすることで、

規模や数量で勝る首位の強者が、2位以下のシェアを奪っていくという戦略のこと。

別名「同質化戦略

 

キリンが「ミート戦略」を取れなかった事情とは

既にラガービールで大きく獲得していたシェアの存在」でした。

もっと言えば「自分の過去の成功(実績と体験)」のことです。

 

ラガービールの大成功により獲得できた事業、顧客、ブランド、イメージなど」は

キリンにとって大きな財産でもあったため、

これらを簡単に切り捨てて「これからの時代は『生ビール』です」とは言えなかったのです。

 

逆に、この点に目をつけていたのがアサヒであり、

生ビールで攻めても、キリンには『過去の成功』があるから「ミート戦略」は採れない

と読んでおり、思い切り「生ビール」に集中して大攻勢をかけることができました。

 

逆転成功のカギは「ライバル他社の『矛盾を突く』」

 

今回のアサヒビールの逆転劇の成功要因である「参入障壁」とは

前節の「1.ライバル他社の『矛盾を突く』」が該当します。

 

ここでいう「矛盾」とは「(キリンが)自分の過去の成功を簡単に捨てられない」という点であり、

その点が障壁になって、アサヒビールが大攻勢をかけた「生ビール市場」には中々参入できませんでした。

 

「既に確立した成功や実績こそが新規参入の足かせになる」と見抜き、

それこそがライバルを参入させない最大の参入障壁とできると見抜いたアサヒビールの着眼点の鋭さが、

戦後最大の「選択と集中」の成功させたと言えます。

 

ちなみに、当時のアサヒの副社長・中條高徳氏が、アサヒの逆転劇について下記の著作で詳しく振り返ってます。

 

 

「選択と集中」の失敗例:パイオニアの凋落

 

参入障壁を作れずに敗退したパイオニア

 

先ほどのアサヒビールの例とは逆に、参入障壁を作ることができず

結果的に「選択と集中」の失敗例となってしまったのが家電メーカーのパイオニアです。

 

パイオニアは1990年代半ばに

カーナビ、PC向けDVDレコーダー、プラズマテレビ」の3つに「選択と集中」をかけ、激戦化する業界の中で勝ち残りを図りました。

1990年代後半まで業績が良かったのですが、2000年過ぎたあたりから大赤字を連続的に出してしまうようになりました。

 

当初の「選択」した分野自体は問題なく、むしろ正解とも言うべき「美味しい市場」でした。

しかし「美味しい市場」であるがゆえに、

新規参入も相次ぎ、中にはパイオニアよりも大きなライバルであるパナソニック日立まで参入して来てしまいました。

 

そういった大きなライバルたちからの「ミート戦略」に加え、

さらにサムスンLGなどの韓国勢価格の安さを武器に参入して来てしまったため、

有効な参入障壁を作れないでいたパイオニアは途端に窮地に陥ってしまいました。

 

「選択と集中」した先が、まさに「天国から地獄」に変わってしまったと言える話です。

 

マネされやすいデジタル技術の弱点

 

パイオニアが参入障壁を作れなかった理由としては、

家電という比較的模倣しやすい商品市場だったという点が挙げられます。

 

前々節の「2.他者ではマネできない(しにくい)、オリジナリティの高い価値を提供する」の裏返しとして、

他社にもマネしやすく、オリジナリティも出しにくい価値」となりやすいのが、デジタル技術・ノウハウであり、

まさに、これらに該当する家電はライバル他社の「ミート戦略」の餌食にされやすかったと言えます。

 

また、パイオニアは先ほどのアサヒビールのような「ライバルの『矛盾』を突く」という戦略も取れなかったため、

有効な参入障壁を作れずに、新規参入を次々と許してしまう形になってしまった点も考えられます。

 

 

最後に:参入障壁をいかに作るか

 

「デジタル」と「ネット」が参入障壁を溶かしていく

 

ここまで「選択と集中」の成功例と失敗例を見て来て、

両者を分けた要因として「参入障壁を作れたか否か」が大きいということをご理解頂けたかと思います。

 

しかし、本書では現代では「参入障壁を作る」ことが困難になって来ていると指摘しており、

その理由として、

先ほどのパイオニアの例の際にも出て来た「デジタル技術の模倣しやすさ」があることに加え、

インターネットの普及」も大きいと指摘しています。

 

インターネット通販の普及に伴い、地域に根差していた書店やTVゲーム販売店などが姿を消していったのは、その典型例だと言えます。

 

デジタル技術インターネットという2つの大きな潮流が、

それまでは機能していた「企業独自のオリジナリティ」や「『地元』という利便性」といった参入障壁をドンドン溶かしていると言えます。

 

「アナログな価値」こそ参入障壁にできる

 

それでは今後は参入障壁を作ることができないのかと言えば、

そうではなく、以下のような対策を打てると本書の著者・守屋氏は言います。

 

まず、デジタル化やインターネットによってもマネしにくい

アナログな技術やノウハウ、デザイン、環境等」が参入障壁として機能すると言います。

 

具体的には「センスや経験などに基づくテクニック」や「その人固有の体験に基づく作品や経験談」などが該当すると思われますが、

これらは文字通り「アナログ」であるがゆえに「マネされにくい」

 

それと、さらに「マネされにくい」参入障壁もあると言います。

それが参入障壁「3.規模や体力での圧倒的な差」です。

 

これは、ライバル他社と比較した時の「自社の規模や体力の優位な差」のことです。

この「差」があれば、たとえ新規参入が相次いだとしても自社の持つ「圧倒的な差」で「ミート戦略」を行い、ライバルたちを飲み込むことができます。

しかも、「規模や体力」は短期間で追いつくことは困難なので、ここまで紹介した参入障壁の中で機能しやすい壁だとのことです。

 

しかし、これは本質的に「強者の戦略」であり、資源に乏しい弱者や個人には採りにくい戦略であることは否めません。

 

弱者が採れる戦略としては、

先に挙げた「アナログ面での差別化」や

アサヒビールのような「ライバルの『矛盾』を突く

という参入障壁を狙っていくことが現実的だと言えるかと思います。

 

 

今回は以上になります。

お読み下さりありがとうございました。

 

 

 

  

 

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